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シティブレーンストーミング

ICFは毎回、プログラムコミッティー・竹中平蔵がモデレーターとなって議論の方向性が示される「シティブレーンストーミング」にはじまります。2019年は、この2日間の各セッションのキーワードを中心に、「あなたにとって働きやすい都市とは?」「未来の課題を解決するのはテクノロジーか?アートか?」「資本主義は永久に続くか?」といった多様な問いが会場に投げかけられ、スマホでの数百名の回答を通じて、都市の未来が孕む複雑な課題を再認識する機会となりました。

基調講演1ヨルゲン・ランダース氏:「2050年に向けて限りある地球におけるグローバルな発展~課題は何か?また、米国、中国、日本はどう役立つのか?」

ランダース氏の著書『成長の限界(1972)』『2052(2012)』で示された地球の暗澹たる未来予想図は、どうやら現実になりつつあります。長期的な地球環境の安定よりも短期的な富の追求に目を眩ませる企業や、世界規模の人口増加によって、CO2排出量が増加し、地球の温暖化が加速していると報じられているのです。長年この問題に警鐘を鳴らしてきた氏は、この40年もの間解決に向けたアクションが少ないことを嘆き、私たちは今すぐに行動を変えるべきだと語りました。

解決策として、米国や日本などの主要な資本主義国家が中国モデルの一部を採用することが提案されました。民主主義では競争の原理が働いて様々な規制がしにくくなりますが、中国のように国家が決定して法制化すれば、秩序のある体制で国全体を転換させることが可能だという訳です。例えばランダース氏の祖国ノルウェーでは、2010年に化石エネルギーを暖房に使わないという法整備が成され、同様に中国では電気自動車への転換施策が国を挙げて進んでいます。太陽光や風力発電などの再生可能エネルギー使用を促進するために、国がリーダーシップを発揮して、補助金を支出することも重要なきっかけになると唱えました。

都市にフォーカスした場合でも、スマートグリッドの整備や、廃棄物の都市内での処理、都市のグリーン化のための富裕層増税など、幾つもの解決策が提示され、環境負荷を減らす仕組みを盛り込んだ都市計画が、地球の未来を大きく左右する起爆剤になることは間違いない、と氏は訴えました。

基調講演2豊田啓介氏:「都市のマルチバース化とコモングラウンドという新大陸」

豊田氏は、自身の設計事例を紹介しながら、デジタル時代の建築の新常識を説明しました。高次元情報を扱い、3次元空間以外のアウトプットを検討できる視座を得ると、アウトプットが建築空間でなく音声や照明でもよくなる。言い換えれば、デジタル技術によって、建築家という職業は3次元空間のみならず、高次元情報を用いてデザインする職能に突如変わりつつあるというのです。

次に、今後この技術を都市全体にどのように実装するのかについて語られました。課題としてあげられたのはインプット。つまり都市の多様なデータをデジタル上に記載し、次元としてデザインできるように、都市を感知するセンサーの重要性です。都市を正確に理解し、都市に価値あるものを生み出すためには、物理世界とデジタル情報とが重なり合う共有基盤(コモングラウンド)を構築する必要があると力説しました。

さらに、現在、産業の主役はUberやAirbnbなどの情報プラットフォームに移りつつあるが、今後はコモングラウンドの文脈から、都市の物理社会と情報社会とを複合的にコントロールできるプラットフォーマーが出現すると予測。その際、モノづくりを究めた、日本の製造業は、コモングラウンド構築において可能性が拓けていると期待を示しました。

また、2025年の大阪・関西万博2025に関わる氏から、万博がスマートシティの実証実験都市になり得ることが紹介され、デジタル時代における万博の意義が再確認されました。最後に、現代における新大陸は火星ではなくコモングラウンドだとし、デジタル化を急がないとたどり着けないと訴えました。

基調講演3南條史生氏:「アートに向かう未来」

「未来と芸術展」を企画した森美術館の南條館長は、ICFとの共同開催を記念した基調講演の冒頭で、アートと科学の間にあまり境界はないのではないかと問題提起しました。科学者が、技術を突き詰めて宇宙や社会について論証するのに対し、アーティストは、直観的にそれらを表現する。論証と表現というアプローチは違っても、リアリティとは何かを追求する姿勢は同じではないかという指摘です。また、江戸時代の日本を例に挙げ、文化・芸術こそが、単なる富や権力の蓄積という目標を、生き方の充実という別の目標に置き換える可能性を示唆しました。

「未来と芸術展」では、この発想を出発点とし、科学を伴ったアートが都市のメタボリズム(新陳代謝)に寄与することを示す作品が数多く展示されました。例えば、ミドリムシで作った外壁を持つ建築は、酸素を吐き出してCO2を減らすことができ、光合成を通じて都市に寄与しています。ほかには、3Dプリンターで金属を打ち出して作った橋、ドローンでレンガを積み上げて作った建築、またAIが作ったアルゴリズムで装飾された建築も紹介され、これらの展示物がすでに大きな反響を呼んでいることを紹介しました。

南條氏は、今後AIやバイオが進化することで、アートの形はより多元化し、同時に都市はスマートシティ化していくことが予想される一方、都市と人間の持続可能性は、テクノロジーを倫理や哲学に基づいて適切に使えるか否かにかかっていると、危機感をもって訴えました。

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