ネオ・メタボリズム建築への探求が、出発点となった「未来の芸術展」
森美術館では、開業以来、2004年の「アーキラボ展」、2011年の「メタボリズムの未来都市展」や2018年の「建築の日本展」などをはじめとして、過去から未来を俯瞰する多様な建築展を周期的に開催してきました。そして、私たちはこの系譜の先に、次代の建築のあり様を映す建築展を構想しました。それは、メタボリズム建築が唱えられた1960年代当時は不可能だった建築の真の新陳代謝が、昨今発展したバイオテクノロジーやAIといった最新テクノロジーで実現可能なものとなるのではないか、という想定によるもので、現代版のメタボリズム、つまりネオ・メタボリズムの建築展を検討することになったのです。
ただ、実際に調べていくなかで分かったことは、ネオ・メタボリズムと言える都市提案も、その実現に向けたビジョンを発表するような事例もあまり多くはないということがわかりました。逆に言うと、メタボリズム運動時に、都市を構想する建築家があれほど多くいたのは、東京が第2次大戦で廃墟になっていて、そこに新たな都市のビジョンを大胆に描けたからではないかと思います。アフリカや中国ならまだしも、今の東京や先進都市では未来の都市像を構想するのは難しいのかもしれない。
そこで、未来都市だけを対象とするのでなく、都市の構成要素である建築に焦点を当て、次に建築の中身であるライフスタイル、そしてライフスタイルを司る人間にへと焦点をシフトしました。そこで最終的に「未来と芸術」というタイトルの、より広範囲で実験的な企画に進化したのです。ですから、本展は、都市から出発しますが、さらに幅広いカテゴリーのものが展示されます。そして、物語の最後は、「人間は将来どうなるのか」という根源的な問いを投げかけで終わります。
未来都市カテゴリーでは、メタボリズム建築時に存在しなかった、環境問題とスマートシティという2つのテーマに重要な展開を見出し、そのテーマに紐づく作品を世界中から選びました。建築では、素材と技術の変化に着目し、環境に優しい建築物や、ドローン、3Dプリンターを活用した建築事例を展示します。ライフスタイルのセクションでは、ファッションや食、住居、モビリティ、ペットと、衣食住における非常に広範なテーマを取り上げ、それぞれの分野で象徴的に未来を具現している作品を選定しました。最後、人間の身体拡張においては、ロボット技術による義足や、バイオ芸術によるデザイナーズベイビーなど、これから人間の身体に生じるかもしれない変革を紹介しています。こうした事例は最終的にポストヒューマンへと向かう人間を示唆し、大きな物議を醸しだすことになるでしょう。
ユニークだと思うのは、MIT所属の、ドイツ人アーティスト、ディムート・シュトレーベによる「ゴッホの耳」という作品。ゴッホは自殺する前に左耳を切り落としたことで有名ですが、この作品は、ゴッホの弟の末裔の遺伝子と、ゴッホの母系に伝わる遺伝子とを総合、培養して、限りなく本物のゴッホの耳に近い生体を作り出しているんです。アートは今やここまで来たのか、という衝撃的な作品ではないでしょうか。
「ゴッホの耳」のように、奥の深い作品があるので、説明は重要だと考えています。そこには数々の物語があり、多様な発見があります。 そしてテクノロジーの最前線と、アートの最前線は、創造性という言葉で結びつき、もう境界がなくなっているということが感じられる機会になると思います。僕自身も、これがアートかどうかでなく、これもあれも面白いではないか、という感覚で内容を構成しました。