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KEYNOTE持続不可能性の高まる今、
目指すは都市の有意義な衰退なのか

Profile

ヨルゲン・ランダースBIノルウェービジネススクール 法律ガバナンス学部 気候戦略 名誉教授

1945年生まれ。ヨルゲン・ランダースはBIノルウェービジネススクールの名誉教授(気候戦略)である。未来、特にサステナビリティ、気象、エネルギーに関する問題に従事。世界中で講演や提言を行っており、最近は中国での機会が増えている。

人生の三分の一を学術界で、三分の一をビジネス界で、三分の一をNGOの分野で過ごす。1981年~89年にはBIノルウェービジネススクール学長を、1994年~99年にはWWFインターナショナル副事務局長。ノルウェーの3つの銀行の代表、多数企業の非執行役員、3つの多国籍企業のサステナビリティ担当評議員も務める。ローマクラブの正会員であり、ローマクラブ中国支部の初代代表でもある。

論文や著作も多数執筆している。最初の著作は1972年に共同執筆した「成長の限界」。最近では、2012年に「2052 今後40年のグローバル予測」、2016年に「Reinventing Prosperity with Graeme Maxton」、2018年にヨハン・ロックストロームらと「Transformation is feasible」を著す。

2019年度のICFでは、基調講演のトップバッターとして、世界的な環境経済学者のヨルゲン・ランダース氏をお迎えします。誰もが未来は明るく幸せなものであって欲しいと願いますが、どうやらこのままでは不穏な未来が待ち受けていることに、今さらながら皆が気付き始めました。1970年代から、世界に向けて地球の未来予測を示し、人々に気付きを与えるきっかけを作ってきた第一人者とも言えるランダース氏の魂の警告は、日本の未来にとって貴重なアドバイスとなることでしょう。

『成長の限界』で世界に向けて警鐘を鳴らす

1972年、ヨルゲン・ランダース氏は世界中の科学者、経済学者、経営者達が集まる民間シンクタンクであるローマクラブの一員として、『成長の限界』を共著しました。フューチャーレポートの発端とも評される本書の内容は、爆発的な人口増加や食糧・資源の欠乏、環境汚染などが相互に関わりながら早急に進行するという予測を示し、各国の成長はもちろん、地球の寿命にも限界が訪れるという警鐘を鳴らした話題作でした。このまま地球が許容量を超えれば、「管理された衰退」か「自然任せの崩壊」という二者択一を迫られる未来が待っていると悲観的に強調した点も印象的です。

1970年代初頭と言えば、日本では急速な高度経済成長も終盤に差し掛かった頃です。当時、社会に悲観的な様子はなく、バラ色の経済成長を信じて、いまだ成長至上主義を突き進んでいました。そのため、日本のみならず、当時の先進諸国の人々にとっても、『成長の限界』に書かれた予測はきわめてセンセーショナルなものだったのです。一方、この話題作は、当時の人々にとっては想像力が追いつかず、どこか人ごとのように受け取られることが多かったのも事実です。結局、先進諸国は、改善のための意思決定や施策には踏み込めず、地球の物理的限界をどんどん狭めていく道を歩んでいきます。

『2052』は今を生きる私達への最終警告

『成長の限界』から40年後の2012年、ランダース氏は『2052』を出版しました。ここ40年間で、加速度的に持続不可能性が増大し、当初のシナリオの前提が覆ったからです。また、40年前は、未来予測に必要なデータや機器、知見が不十分で、氏の想像力に依拠するところが大きく、説得力に欠けるとも指摘されていました。これらの課題を解決するのに、最新・大量のデータや技術を駆使し、多くの研究者の協力を得たのが本書です。劇的な時代の変化を痛感するなかで、行動や思考の指針になるようなロードマップがあればいい、という氏のパーソナルな思いも出版を後押ししたとされています。

本書の最も注目すべき点は、地球が既にカウントダウンの段階に入ったことを、気候や人口、経済、政治など様々な分野の変化を基に、相関的にシミュレーションして示している点です。これにより地球の未来が今後どれほど厳しい状況になるのかが分かり、各国が努力すればまだ改善の余地はあるのか、そして私達は今後どう生きていくべきかについて、現代人に深い考察を促しています。

とりわけ、かねてから問題視されており、日本でも近年特に懸念が高まっている地球温暖化について、氏は「2052年には地球の平均気温が現在よりも2℃以上高くなる。そして、経済成長のペースダウンを試みなければ、エネルギー使用に伴うCO2排出量は増え続け、平均気温は2℃以上、海面も30センチ以上上昇することは避けられない」と述べています。現在の異常気象や洪水、地滑り、ハリケーン、森林の枯渇、砂漠化などはまだ序の口で、人々の命が大きな災害によって脅かされる可能性が大幅に高まると警告しています。

また人口増加に関しては、「世界人口は2040年頃81億人でピークとなり、その後減少。2052年には現在の水準まで減り、世界経済の成長もそこで止まる」と大胆に予測。その根拠として、都市部に人口が集中することで少子化が進むこと、そして人類が環境破壊や気候変動対策のための投資を大幅に増やす必要に迫られ、大規模な経済変革を起こすことの2つが挙げられました。いわば、「CO2を減らし地球の持続可能性を高めるための、意図的な経済失速」が起こると予測しているのです。

『2052』の結びの言葉に、「最後にもうひと言、言わせてほしい。どうか私の予測が当たらないよう、力を貸してほしい。力を合わせれば、はるかにすばらしい世界を築くことができるはずだ。」とあります。氏は、地球の未来に対し、決して楽観視はしておらず、率直に厳しいというスタンスをとっています。しかし、現代人の行動や努力によって、未来の地球を改善できる余地は残されていると、希望を見出し、人々を鼓舞することもやめないアジエーター(扇動者)でもあるのです。

『2052』の中で特筆すべきランダース氏の言葉

本書のユニークな点は、国家レベルの問題点や未来像を可視化しながら、1人ひとりが今後どう生きていくべきかについて、20の具体的なアドバイスをしている点でしょう。ここでは5つを引用・抜粋します。

収入より満足に目を向けよ
P.432~434

成長至上主義を長年続けてきた先進国の人々は、より良い収入、より豊かな経済生活を得ることで満足感を覚えてきました。しかし環境汚染や資源枯渇という副産物を生み出す経済成長にブレーキをかけなければ、地球は終焉に向かうでしょう。氏は、お金や物に依存したり豊かさを競い合うことや、心身を壊してまでがむしゃらに働くことを続ける人々に対して、もっと物を大切にし、少ない物でも満足する生き方や、マインドフルでゆったりとした時間の過ごし方に価値を見出すべきだと提唱しています。

決定を下すことのできる国に引っ越しなさい
P.442~444

多くの先進国は自国の経済成長を最優先し、実際に危機に直面してから対応する傾向にあります。そういう国に住み続けていては、経済的、精神的負担が増すばかりになってしまうでしょう。将来の危機に対して先見の明を持ち、理性的に判断して事前に準備を進めるような国に引っ越しをすることを氏は強く勧めています。

あなたの生活水準を脅かす持続不可能性について知ろう
P.444~445

今後自分が住む場所が、年月が経つにつれてどのような変化に見舞われる可能性があるかについて、頭に叩き込んでおくべきだと氏は述べています。気候変動や人口の増減、それに伴うエネルギー供給量の変化や税金、仕事に関する脅威・リスクなどについて、事が起きてから慌てふためくのでは遅すぎるからです。将来の自分の幸せを脅かすもののリストを作成し、今からできる対策を積み上げて対処力や余裕を高めておく必要があります。

子どもたちに北京語を習うよう勧めなさい
P.448

2052年、中国は、人口がアメリカの3.5倍、経済規模は2.5倍になり、世界のリーダーになっているでしょう。人口同様に資源も豊富なため、外国に頼る必要も無く、自給自足体制を着々と整えつつあります。そこで氏は、未来の覇権国である中国の言語を子供たちに学ばせることを推奨しています。中国と関わりを持てる環境と能力を得ておけば、特に職において選択肢を増やすことができ、困難が多い未来でも安定した生活ができる可能性が高まるとしています。

生物多様性に興味があるなら、今のうちに行って見ておこう
P.437~438

加速度的な自然破壊により、地球環境は汚され、生態系は崩れ、いくつもの動植物が絶滅の危機に瀕しています。特に、気候変動や密猟などによる生態系への打撃は大きく、今まで美しいとされてきた景色や動物の姿は今後見られなくなる恐れがあるでしょう。美しい自然の姿を今のうちに目に焼き付けておく必要があります。

今年のICFキーノートスピーカーに

ICFプログラムコミッティーの竹中平蔵は、『2052』内の巻末に解説文を寄せています。経済学者である竹中は、氏の未来予測にかねてより関心を示しており、特に「意図的な経済失速が地球の持続可能性を高める」という主張に強い興味を抱いています。また、同じくICFプログラムコミッティーである南條らも、事前のインタビューで、欧米を中心に、環境に対する強烈な問題意識を背景に、人と他生物との共生を重視する価値観が急速に広まっていることを唱えています。

氏は、『2052』発刊以降、世界各国での講演会などに招かれて、地球の未来について提言を続けています。その問題意識はICFの課題感ともリンクしており、今回も参加者に多くの知識と意識変革をもたらすことでしょう。都市の未来を語り合う今回のICFで、氏と横断的な意見交換が行われることに大きな期待が寄せられているのです。

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