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INTERVIEW都市空間の未来を決定するものは何か。
国際都市の光と影を見つめて。

Profile

市川宏雄明治大学名誉教授/帝京大学特任教授/森記念財団理事

市川宏雄は、森記念財団都市戦略研究所業務理事、大都市政策研究機構理事長、日本危機管理士機構理事長等の要職を務め、海外ではSteering Board Member of Future of Urban Development and Services Committee, World Economic Forum(ダボス会議)などで活躍。都市政策、都市の国際競争力、危機管理、テレワークなどを専門とし、東京や大都市圏に関してさまざまな著作を発表してきた。著書に『都市のエクリチュール』(単著、千倉書房、2018年)、『創発する都市 東京』(編著、都市出版、2017年)、『東京一極集中が日本を救う』(単著、ディスカヴァー携書、2015年)、『東京2025 ポスト五輪の都市戦略』(共著、東洋経済新報社、2015年)、『山手線に新駅ができる本当の理由』(単著、都市出版、2012年)、『日本大災害の教訓』(共著、東洋経済、2011年)、『日本の未来をつくる』(共著、文藝春秋、2009年)などがある。これまで政府や東京都はじめ、数多くの公的機関・民間団体の活動に会長や政策委員として携わってきた。現在、日本テレワーク学会ならびに日本危機管理防災学会の会長。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程を経て、ウォータールー大学大学院博士課程修了(都市地域計画、Ph.D.)。1947年、東京生まれ。一級建築士。

国際化の加速とテクノロジーの進歩にしたがって、都市の姿はゆっくりとしかし確実に変わっていきます。五輪開催を間近に控え、東京という都市が抱える課題が浮き彫りになりつつある今、我々は一体どのような都市の未来を思い描くことができるのでしょうか。
ICF2019では、「東京2035 - 輝く世界都市 ~人は未来の都市空間に何を望むのか?~」と題し、都市における「時間および空間」の使い方についての議論が交わされるセッションが予定されています。セッションの企画者であり、プログラムコミッティーの市川宏雄に、国際化が都市にもたらす光と影、セッションの概要とその狙い、東京の街づくりにおけるマネジメントの重要性についてインタビューしました。

インバウンド増加がもたらす都市の国際化、その光と影

2020年に五輪を控えている東京では国を挙げての一大イベントに向けて、現在、様々なシミュレーションが行われています。例えば、オリンピック期間中は連日100~200万人の人間が東京の中を動き回ることになると試算されました。そうなると当然、交通規制をかけなくてはいけなくなるわけですが、部分的に首都高速を止めた実験では、一般道の交通量は通常時の1.5倍にも達してしまうことが判明したんです。五輪は一時的なものですが、増え続けるインバウンドを考慮すると、想定されるありとあらゆる都市問題について具体的に考えなくてはならないステージに私たちはさしかかっているのです。

ダイバーシティ問題もその1つです。2013年に五輪開催が決定して以来、海外からの注目度が高まり、観光客数も大きく増加しています。今、東京だけでも年間1,300万人超の外国人観光客が訪れており、彼らが情報を拡散することでさらなる訪問者を呼び寄せるという循環が生まれつつありますね。しかしながら、外国人観光客の急激な増加が混乱を生じさせることもわかってきました。インバウンドが増えることは東京の魅力の証明ですので喜ばしいところですが、その一方で社会問題を引き起こす一因となっていることも、ここ最近見えてきています。

インバウンドが増加すればその分異なった文化が接触するため、大なり小なり混乱が起きる可能性が生じます。ニューヨーク、パリ、ロンドンなどの国際的な大都市では、歴史的に多民族が入り混じる環境があったこともあり、異文化同士の軋轢が存在するということが当たり前の認識なのですが、東京はまだその経験に乏しい。つまり東京は異文化流入による弊害、軋轢をこれから本格的に経験することになるんです。

これから顕在化する、東京のダイバーシティ問題

通常、異文化が都市に流入する場合、都市のどこかに移民コミュニティが形成されます。すると元来そこにいた人たちがそのエリアから抜けていき、都市の中に文化的なモザイクが形成される。これはいわゆる都市のモザイク化と呼ばれ、住民ネットワークの崩壊にも及ぶと言われます。先のニューヨーク、パリといった大都市とは違い、東京はまだモザイク化が進んでいませんが、将来的にモザイク化していくでしょう。

例えば、国際都市宣言をしている大田区には羽田空港があり、その周辺には非白人系の外国人が多く、高い国際性を持つエリアができあがりつつあります。それに伴って地元がそれにどう対応できるのかという課題が持ち上がってきています。大田区に限らず、そういうエリアは徐々に生まれつつありますが、異文化を持つ人々をどう誘導するべきかという視点をもった自治体は、日本にはほとんどありません。

東京のダイバーシティは、モザイク化が起きることよりも、モザイク化に対応できない現体制を変えられないことに大きな問題があるのです。知識・経験にも乏しく、ダイバーシティ問題をリーダーシップを持って解決できる人材もあまりいません。実際に、東京の未来展望を海外でプレゼンすると、「貧困や社会的弱者への対応は?」といった質問が必ずあります。分かっているけど対応できないというのが実状ですね。そのため、日本では国際化を進めないといけないと国内でよく言われますが、大前提として国際化には光と影があるという世界都市のスタンダードを理解しておくことが重要です。光ばかりを見ているのではなく、影の部分にもしっかり対応できるようになることが何より大切なのです。

ICF2019では参加者とともに「テクノロジーが実現する都市の未来」を選ぶ

ICF2019では、国際都市の光を探るため「東京2035 - 輝く世界都市 ~人は未来の都市空間に何を望むのか?~」というテーマでセッションを行います。テクノロジーの進展によって実現される都市の未来に焦点を当てて、先鋭的な3人を登壇者としてお呼びする予定です。前々回のICFでは東京の未来をアニメーションで提示したのですが、今年はそれを3つのテーマをもとに具体的に深掘りする形で都市の未来について議論していきます。

一つめのテーマは、シェアリング・エコノミ―です。今、シェアリング・オフィスというワークスタイルが一般的になってきていますね。この「未来の働き方」という観点については、WeWork Japanのゼネラルマネージャーを勤める髙橋正巳さんに登壇いただきます。二つめのテーマは、インフォメーションやモビリティー、エネルギーなど、今後、都市そのものがどう変わっていくのかという未来志向的な話。こちらに関しては、この領域の専門家である東京都市大学の葉村真樹教授をお呼びします。そして三つめが、テクノロジーで都市がどう変わるのか。こちらは実際に会議で自分のアバターロボットを導入するなどの試みをなさっている、IT批評家で実践家の尾原和啓さんにお話を聞いてみようと思います。三者三様の面白さがあるので、良い意味で何が飛び出すかわからないエキサイティングなセッションになるでしょうね。

セッションの工夫点として、都市の未来についての議論を皆さんに見ていただいて、一緒に考え悩んでもらえませんかという「観客参加型」に仕立てています。実はこれは非常に重要なポイントなんです。なぜなら、車が自動運転になり、テクノロジーで何でも可能になったとしても、それらを使う使わないという選択肢の決定は、一人一人の人間が行なうことですから。つまり、未来を選ぶのは生活者です。だからこそ私は、セッションの参加者に、疑似未来とその選択肢を提示することで、一緒に未来を創ろうと呼びかけたいのです。未来は必ずやってくるもの。いつか都市の分岐点に我々が立ったときのために、参加者がそれぞれヒントを持ち帰れるような機会を提供したいと考えています。

Leader’s GLOBAL EYES

最近行った都市で印象的だったのは、フィンランドのヘルシンキです。世界最大のスタートアップの祭典「Slush」の会期中に訪問したこともあって、若い世代のパワーを強く感じましたね。大都市のロンドンや東京ではなく、人口のあまり多くないヘルシンキでパワーがうごめいているっていうのは素直に面白いなと。交通、教育、行政サービスも斬新で、小さいながらもこれからの時代を象徴する都市だなと感じました。

あと注目しているのは、オランダのアムステルダム。Brexitによってロンドンがポジショニングを失いつつある中、その受け皿としてアムステルダムの存在感が上がってきている点は見逃せません。オランダは歴史的にも全ての文化を受け入れる態度を持った国。よって、外国人が多いにも関わらずモザイク化を起こしていないんです。そういう柔軟で寛容な文化背景があるからこそ、現在の社会情勢において都市競争力を発揮すると展望しています。

そしてアジアではやはり中国の深圳でしょうか。深圳の地政学的な特徴は、深圳、広州、そして香港が広がる珠江デルタが、7千万の人口を抱える世界最大の都市圏を形成している点です。その中でも深圳は、中国政府から強力なテコ入れも入り、目下香港から金融センターとしての機能を奪いはじめています。都市空間的にはまだまだ香港には敵わないんですが、製造業に強い深圳が香港から金融センターまで奪い取ったらすごいことになるでしょう。

では、それらを踏まえて今後東京をどうするべきか。例えばシンボリックな巨大建築だけでは何も意味がないんですね。なぜなら巨大建築は世界中に当たり前のようにあるものだから。私が今興味を持っているのは、建築物を造った後の施設運営やエリアマネジメント。東京、ニューヨーク、ロンドン、シンガポールも建築自体に大きく違う部分はありませんが、東京はユニークな運営方式をとっており建築物の使い方が非常に優れている。これからの東京の都市空間を語るうえで、運営にも注目するべきだというのが私の考えです。

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