美術館を飛び出して都市空間で実装されるとき、アートの新たな未来が拓かれる。
アートとサイエンスの交点に可能性を感じて、専門メディアの運営、書籍の編集・執筆、そしてアートイベントの企画と、編集者・キュレーターとして10年間活動してきました。きっかけとなったのは、2009年の科学未来館での、音楽家・高木正勝さんと脳科学者・坂井克之さんとの対談です。高木さんが、「ピアノを弾いている時、宇宙に繋がっている気がする」とスピリチュアルな雰囲気漂う発言をすれば、脳科学者が「実はそうなんです。脳のメカニズムとして・・・」と、科学的に解きほぐす、その呼応する2人に知的興奮を味わったのが始まりでした。それをきっかけに、若手科学者とサイエンスコミュニケーション活動「SYNAPSE」を始動しました。
当時は、アートの新しい楽しみ方をサイエンスが与えてくれる、アート・デザインによってサイエンスの魅力を多くの人に届けられる、といった側面に魅了されていました。ただ最近は、理性的なアプローチ、例えばテクノロジーを駆使したような課題解決の限界を感じるときに、情動的なアーティストが活躍できるのではと感じることが多くなりました。サイエンスやテクノロジーとアートが入り交じる環境にこそ、新たな価値創造の可能性があると思うんです。
その一方、現在のアートやメディアのあり方について違和感を憶えることもあります。デジタルテクノロジーを活用した視覚系の作品がもてはやされ過ぎではないかと。極論、光っていれば最先端の作品といったような、メディアアートを矮小化しかねない認識が広がりつつあるように思います。私はこれだけデジタルテクノロジーが浸透した社会だからこそ、もっと既存の枠組みを超えたところにメディアアートの可能性があると思います。例えば、そのフロンティアの1つが都市空間。美術館内に留まることなく、街なかにアート作品が展示・実装されることで、作品そして都市の両方の価値を発揮できると思っています。