人工知能の権威が語る人工知能の教育戦略、職の未来、クリエイティビティの再定義について

登壇者インタビュー – 北野宏明

人工知能の権威が語る
人工知能の教育戦略、職の未来、クリエイティビティの再定義について

はじめに

Innovative City Forum 2016の初日に開催される「先端技術セッション」、そして二日目の「未来東京セッション」に登壇される同氏に人工知能が巻き起こす社会シフトにおける重要な論点について話を伺った。

AIがもたらす都市へのインパクト

人工知能は、これから色々なところに使われてくるようになると思います。外だと一番分かり易いのは、自動運転です。ただ、自動運転がいきなり六本木から虎ノ門を走り回るというのはなかなかなく、最初はオリンピックを目指して開発中のお台場やオリンピック村、または高速道路での限定的な導入など、ある程度制限した場所で自動運転が始まるかと思います。
自動運転技術と近いものは、物流関連。人ではなく、物を自動的に動かす事が多分出てきます。それ以外は、日常生活の色々なところに入ってきて、既にアメリカだと、アマゾンの「Echo」がありますよね。あれで喋ると、どんどん注文してくれて、音声対話のシステムというのも、人工知能の対象領域です。アメリカの場合は、アマゾンの倉庫の中は大量にロボットが導入されています。ロボットが物流の中核システムを担って、最後にドローンで飛んでくる、という形も検討されています。いわゆるエンドツーエンドで、人工知能とロボットを導入するということでしょう。しかし、この時にユーザは、自分が人工知能システムと接している感覚はあまりしないでしょうね。それは、色々なところで背後に人工知能システムが稼働しているからですし、その完成度が高ければ意識すらしないようになります。

未来東京を創る上での重要アジェンダとは

基本的に、日本の場合は人口減になりますから、どういう風に人工知能システムやロボットを使って生産性を高めて、国を維持して、更に発展させるか。どこまでの事を狙っていくのか、という、そこのビジョンが非常に必要になってくるのではないかなと思います。
アメリカの場合は人口減少という話がないので、そこはあまり考えなくてよい。むしろ、ビジネスとか生産性とか医療、国防、そういうところが大きいですよね。他方、日本の場合は、そういうのももちろんあるのだけれども、それプラス世界で初めて急激な人口減を迎え、高齢化が劇的に進む国なわけですから、そこは日本独自のアジェンダですよね。今は独自だけれども、東南アジア、中国などの国は、いずれそうなるわけです。人口減というのは不可避なので、そこで作ったものは、他の国でも使える可能性はあると思います。

人工知能と職の未来

例えば、さっきの自動走行車ですけれども、長期的にはドライバーの仕事が激減するはずなのですよ。ただ、それが急に起きるのか、時間がかかるから吸収できるのかの違いです。例えば100あった仕事がゼロになる。それが1年間で起きるのか、10年で起きるのか、20年で起きるのかで全然意味が違ってくる。もし20年でドライバーの数がかなり減るということが起きるのだったらば、それは多分、吸収できるでしょう。

でも、大体の仕事は、人間がまだやるのでしょうね。そんなに劇的に、僕はなくなるような気もしないです。
医者もいなくなりはしないですよ。ただ、人工知能の診断補助システムがあって、それが非常に性能がいいとなったときに、その病院にどこの人工知能システムの新しいやつがあって、そこの医者はちゃんと理解しているのかというのが1つのポイントになって、そのうち、“人工知能を使いこなせている病院ランキング”みたいなものが出てくるのではないかなと思います。でも、やはり常に例外事象があって、人工知能システムが例外事象に対応できなければ困るわけですよね。人間は、そこのプラスアルファの例外事象対応能力がある人は生き残るけれども、それが欠如していると、どうなってしまうかはわかりません。ただ、例外事象といっても、多くの場合はどこかにそれに関して報告がある時がほとんでしょうから、人工知能システムによるサポートが非常に効果を発揮する局面でしょう。そこでは、人間と人工知能システムの協調が非常に大事になります。
例えばチェスのプログラムは、もう人間よりはるかに強いのです。パソコンチェスでも、ほぼ人間は勝てなくなっちゃっている。でも、何が起きるかというと、チェスをやらなくなっているわけじゃなくて、アドバンスドチェスという新しいゲームになっている。それは、人工知能システムと人間がチームを組んで試合をするのです。これが、人工知能システム単独よりも人間単独よりも強いのです。今、人工知能システムプラス人間というのが一番強力な知能の形です。現在のところ、戦略部分は、当面人間の方が優れているので、そこを人間が担当して、それ以外を人工知能システムが担当するのがよいようです。
いずれ、人間が人工知能にどんどん置き変わっていく部分というのが僕はあると思うのだけれども、当面は人間がかなりやる。ただし、知的能力を拡大する道具として人工知能システムがないと、戦えないという感じになるのではないですかね。

人工知能が社会に普及していく上での課題点とは?

課題点は、あまり過度な期待をしないで、ちゃんと使えるところにちゃんと使っていくというのが重要です。そうしていれば、僕はそんなに課題はないと思います。一方、何をやりたいのかわからなくて困りましたという話を持ってこられても困るわけですよ。こういうものは、人工知能は解けないですから。というか、本人がどうしたいのか解っていない。これは、やりようがない。

それともっと、大きな人間と人工知能の関係では、人間は、問題を提起するということが非常に重要。だから、人間の役割は、問題を提起すること、問いを作る事。まあ、作るというのは色々あって、解くべき問題を提示するという話と、騒動を起こして問題を発生させるというのがある。要するに、トラブルを起こすのは人工知能じゃなくて、人間がトラブルを起こしますから。

人工知能がクリエイティビティの定義を変える

アートみたいなものは色々出てくると思いますよ。うちがパリでやっている研究で、人工知能で作曲をさせたり、一緒にセッションをするのがあります。これは、Flow Machineというのですが、それは、まずスタイルを抽出します。例えば、ディジー・ガレスピーのスタイルとか、コルトレーンのスタイルで伴奏してくれると。そのためには、まずコルトレーンの曲をずっと聞かせておいて、そのスタイルを人工知能が抽出して、新しい音楽に対してコルトレーンのスタイルでやってくれます。それだけではバンドになりませんから、人工知能で全部バンドを作るといった時に、テナーはコルトレーン、この部分はマイルス・デイヴィスにしようという具合にすれば、コルトレーンやマイルスとセッションができる。まあ、コルトレーン風やマイルス風に演奏するという方が正確でしょうけど。また、最近では、ビートルズのスタイルで新しい曲を人工知能が作曲したりしています。
(http://www.flow-machines.com/ai-makes-pop-music/)

こういう事ができるようになると、クリエイティビティとは一体何なのかが見えてきます。音楽だけでなく、絵画とか、何か創作するときに人工知能を使うというのが、僕はこれから増えてくると思いますね。
逆に言うと、人間が考えていない色々なことを作ってくれたり、人間がこうだなと思ってもできないことをやってくれたりしますから、人工知能は、思ったよりもアートに入ってくるのではないですか。

北野宏明

ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長
ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長。特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構 会長。沖縄科学技術大学院大学 教授。

理化学研究所 統合生命医科学研究センター 疾患システムモデリング研究グループ グループディレクター。ソニー株式会社 執行役員コーポレートエグゼクティブ。