イノベーション競争力は、「都市競争力」。2035年の都市を考える意義とは?
ICFコミッティーインタビュー – 竹中平蔵
イノベーション競争力は、「都市競争力」。2035年の都市を考える意義とは?
イノベーションは「都市」でこそ生まれる
Innovative City Forumをはじめた理由ですが、そもそも都市というものはイノベーションの拠点であり、新しいライフスタイルを提唱する場所である、と認識してきました。
21世紀はイノベーションの時代です。
英国のThe Economist(エコノミスト)も数年前に「2050年の世界」という本を出しましたが、その中でも21世紀が「シュンペーター的競争の時代」に入るという事を主張しています。
そして、イノベーションはまさに「都市で起きる」のです。
イノベーションとは、新しいものの組み合わせや新結合、つまり新しい結びつきによって生まれるものです。人や企業など、色々な結びつきがあり、それらの新しい結びつきの中でイノベーションが出てきます。
その場所を提供するからこそ「都市」には意味があります。
グローバル競争というのは、実はある意味で都市間競争でもあります。
日本、アメリカ、中国の競争には、東京、ニューヨーク、北京・上海が競争し合っているという側面をより強く持っています。そのような背景の中で未来の都市とはどうあるべきか、イノベーティブな都市になるにはどうすべきか、という問題意識がありました。
そしてもう一つ大切なのは、都市は新しいライフスタイルを提唱する場所であるという事です。
ファッションや働き方、生き方も同じく、都市で生まれます。
これらの観点から生まれたInnovative City Forumも今年で4回目となります。
Innovative Cityを別の言葉で表現すれば、イノベーションを担う「クリエイティブクラス」を育てるベースとも言えますが、クリエイティブクラスを育てる要素は「テクノロジー」、「アート」、「都市空間」の3つが重要であり、これらの視点から議論を重ねていくプロセスが今まで一貫して行われてきました。
今年のInnovative City Forum 2016開催時に、東京2020に向けた一連の動きが始まります。まず六本木ヒルズ周辺で、政府と民間が一体となったスポーツ・文化・ワールド・フォーラムが開かれます。そこにはダボス会議を主催している世界経済フォーラムのヤンググローバルリーダーズの年次総会も同時開催されます。この非常に重要な国際会議の一環として虎ノ門ヒルズで、Innovative City Forumも行われる事となります。更に、六本木ヒルズ周辺で六本木アートナイトも行われており、極めて包括的なキックオフイベントとして準備が進んでいます。
ロンドンオリンピック後に都市競争力を高めた、ロンドン。東京は変われるか。
私が所長をつとめる森記念財団の都市戦略研究所では、5年前から「世界の都市ランキング」を公表を始めました。従来、金融や安全性などの個別分野におけるランキングは存在しましたが、総合的な都市ランキングは存在しませんでした。また、多くは海外で作られたものでした。そこで日本発の都市ランキングを作るべく、活動してきました。今はお陰様で世界の専門家の間でも非常に高い評価を頂いています。今年もInnovative City Forum 2016の際に世界の都市ランキングを発表する予定です。
当初のランキングはニューヨーク、ロンドン、パリ、東京の順番でしたが、2012年のロンドンオリンピックを契機にロンドン、ニューヨーク、パリ、東京の順番となっています。アジアにおいては、シンガポールやソウルは非常に競争力を高めているし、ヨーロッパではウィーンやフランクフルトのような都市も安定した高い順位を保っています。お互いの都市から学び合い、弱みを克服していく事が非常に重要であると同時に、2035年の姿はどうあるべきか、という点を考えるプロジェクトも同時並行して進めています。このプロセスを反映したセッションもInnovative City Forumの中で行いたいと思っています。
東京は世界4位の実力を持っているのですが、一方で、東京は法人税が高い、空港からのアクセスも改善余地がある、規制緩和を進めなければならないなど幾つかの課題があり、これらを企業や政府と共に改善していきたいと考えています。
世界の都市が「TOKYO」から学べる事は
東京はGDPが圧倒的に大きい都市であり、ニューヨークやロンドンと比べても、高い生産力があります。
同時に「集積地」としても注目すべきです。イノベーションは結びつきが大事ですから、色んなファクターが集積している都市は非常に重要であり、それは強みになります。
東京は、研究者から見た場合に大学などが集積しており、強い機能を持っていると言えます。
これらは日本の技術力を支えてきた要因の一つだと思います。
加えてあげるならば、「環境」があります。
3,500万人という人口が集積していながら、これだけ青空が広がり、水が美味しい都市は東京の強みと言えるでしょう。一方で、よりビジネスがしやすい環境を如何に作るかなど、東京が世界から学ぶべき事も沢山あると思います。
Innovative City Forumで議論される「2035年の東京」とは
20年後の東京を考える上で重要な事は、技術がどこまで進歩するのか、という事です。
今はインダストリー4.0と言われますが、スマホに蓄積されたビックデータの活用で今までにないレベルのビジネス展開が行われています。シェアリングエコノミーが広がったり、人工知能を活用した新分野も生まれたりしています。同時に、これから消えてなくなる職業もあります。
オックスフォード大学で人工知能を研究するマイケル・オズボーン氏も今から10年から20年以内に47%もの職業が消えて無くなる、というショッキングな数字を発表しています。それらを踏まえて、20年後の東京について技術の専門家や都市工学の専門家など、様々な専門分野の方々を交えて、ブレインストーミングを行っています。
技術が発達する中で、例えば新しいコミュニケーションの手段が生まれ、郊外から都心に出勤しなくてもよくなり、働き方もより自由になるかもしれません。そうした自由度が高まる一方で、会社で集まって雑談をする中で保たれていた「人との関係」が薄れていくかもしれません。ある意味便利だけれども、人は孤独になるかもしれない。それによって、今後はよりカウンセラーが必要になるかもしれませんし、孤独だからこそ、アートによって心を解放する事も必要になるかもしれません。
このように、変化が起きる時は、ポジティブな面とネガティブな面があります。
その時には、ポジティブな面を最大限引き出しながら、ネガティブな面を最小限に抑える努力が必要になりますが、ここに新たな職業を生み出す可能性が秘められています。
こうした立体的な議論を今まさに進めています。
竹中平蔵
東洋大学教授 / 慶應義塾大学名誉教授 / 森記念財団都市戦略研究所所長 / アカデミーヒルズ理事
ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣を皮切りに、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣兼務、総務大臣を歴任。博士(経済学)。
著書は、『経済古典は役に立つ』(光文社)、『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎)、『構造改革の真実 竹中平蔵大臣日誌』(日本経済新聞社)、『研究開発と設備投資の経済学』(サントリー学芸賞受賞、東洋経済新報社)など多数。