「人工知能」の概念の成立から半世紀。コンピューターサイエンスの外の分野へ架け橋をかけていく。

ICFコミッティーインタビュー – 市川宏雄

輝かしい2035年を迎えるために東京に求められる変化とは?

テクノロジーの進化と価値観の変化から予想する、2035年の東京。

 都市とライフスタイルの未来を考えるInnovative City Forum。去年までの3回でも、多くのトップランナーたちとさまざまな討議をしてきましたが、今年はさらに具体性をもったセッションを考えています。
森記念財団都市戦略研究所は、2011年に「東京未来シナリオ2035」を発表しています。これは、東京が今後直面していくであろう分岐点をいくつか設定し、どれを選択するかによって分かれる未来を、「豪雨」「長雨」「曇天」「青空」の4つのシナリオで表現したものでした。今年は、このうちいちばん理想的なシナリオである「青空(ブルースカイ)」を取り上げ、そのなかのひとつのパーツを成すテクノロジーに焦点を絞って、東京がどのような未来を迎えるかを徹底的に考えているところです。

2011年の時点では、4つのシナリオは大枠を把握するだけのものでしたが、今回はより具体性のある未来のライフスタイルを描こうと考えています。特にテクノロジーの分野は5年間の間に目覚ましく進化しましたから、それが顕著ですね。たとえば実用化が始まりつつある人工知能は、より重要な生活の一部となっているでしょう。自動運転の自動車が一般化しているのはもちろん、IoTによって流通の分野ではすでに一般的な、販売と同時に発注が行われるPOSシステムが、家庭に入ってくることも考えられます。可能な限り具体的な例を積み重ね、日本のテクノロジーを主体として未来を語る試みです。
テクノロジーが進化し、それが生活の中へ入ってくることは、当然ながら人間のライフスタイルや価値観の変化も意味します。たとえば、ロボットとコンピューターが人間の仕事を分担するようになることで、人間のフリーな時間は長くなります。そのとき人間は余暇をどのように使っていくのか。あるいは、自動運転やカーシェアが一般化すると、駐車スペースは今より必要なくなるでしょう。そうすると現在ある駐車場の土地が余り、都市に余剰の土地が見つかることになる。そんな風に、テクノロジーがひとつひとつ積み重なっていくことで、人の生き方が変わり、都市の姿も変わっていくはずです。セッションでは、Future living(未来の衣食住)、Future work(未来の働く)、Future mobility(未来の移動)、Future entertainment(未来のエンターテイメント)の4つを論点として、様々なジャンルの専門家に集まっていただき、いろいろな視点から未来を語っていただこうと思います。

望ましい未来に近づくために、オリンピックをどのように乗り切るべきか。

2035年、今から約20年後の東京を考えるとき、避けて通れないのが東京オリンピックです。もう4年後に迫っていますから、未来を語るにあたっては、通過点か出発点にすぎませんが、東京にとって重要な局面なのは間違いありません。今回のオリンピックをきっかけとして東京、そして日本の経済状態が上がっていなければ、今回の「青空シナリオ」は成立しないんです。
それでは経済状態が上がっていくために何が必要か。海外からの投資を呼び込むことなのですが、現在はまだまだそこが上手くいっていないのです。海外へ東京のよさを発信していないために、東京の魅力が理解されていないことがいちばんの問題だとされています。安定性や経済力など、東京は世界的に見ても抜きん出た都市なのにそのことが、十分に伝わっていないんですね。大都市とはいえ極東の都市のひとつですから、行ったことがないという投資筋は少なくない。ところが、面白いのは、そんな人々でも、一度この街に来てみるとがらっと印象が変わって、大の東京ファンになるケースが多いこと。そういう意味で、オリンピックは東京を知ってもらうための素晴らしい機会だと思います。これを契機として海外から人や投資が増えれば、規制改革が行われて、いいサイクルが生まれていくのではないでしょうか。
一般的には、オリンピックは大きな投資をするために、反動で翌年は経済が悪化すると言われています。東京も1964年のオリンピックの際には、強烈な投資をしたために翌年の景気は急降下しました。ところがこれは、発展途上段階の都市で起きること。1996年のアトランタオリンピック、2012年のロンドンオリンピックなどの例を見ると分かるのですが、成熟した都市では、無理な投資をしないので、この景気の低迷は起きず、かえってぐんと伸びるのです。ロンドンは実際、我々の研究所が行っているGPCI(Global Power City Index:世界の都市総合力ランキング)でも、オリンピック後に首位となり、そこから独走しています。東京にも同じことが起こりうるとは思うのです。

集中のなかに秩序が存在する東京という都市の奇跡的な強み。

 GPCIの話が出たのでお話しすると、GPCIでは4位につけている東京ですが、10km圏の都心、そして50km圏の都市圏でも、総合力は世界1位です。規模からして、東京圏の人口が3600万人、ニューヨークが2300万人、ロンドンは1600万人ですから、規模がまるで違うんですよね。
普通はこれだけの人口が集中すると、混乱が起きてデメリットが発生するもの。ところが東京ではそれが起きない。我々日本人は気づいていないけれど、ここは奇跡的な都市でもあるんです。この規模で混乱が起きないなんて、実は都市計画のなかには理論がなかったんです。人や物が集まれば集まるほど、矛盾と混乱が起きる。だから人口は分散した方がよいというのが普通の理論なんですよ。日本人の知恵、あるいは無意識のうちに都市の円滑な運営の一員となる能力が、この奇跡を起こしているんです。都市としての強みを、東京が自覚したら、とても強いのではないでしょうか。明るい未来のシナリオにつながっていきます。

都市生活を形づくる要素が結びつくICF

 Innovative City Forumは、都市開発とアート、テクノロジーやバイオが結びつく、刺激的な場です。テクノロジーやバイオは、進化によって人間の価値観を変えていきますし、アートは都市生活の幅を広げてくれるもの。それぞれに都市生活について大切だというのは皆感じていたけれど、全てが一緒くたになる機会はありませんでした。それらを統合し、未来東京のなかに組み込もうとするICFは、世界的に見ても珍しい試みですね。自分たちの未来に向き合う、とても貴重な機会だと考えています。

市川宏雄

明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授/ 森記念財団理事
市川宏雄は、明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授で、森記念財団理事、明治大学危機管理研究センター所長も務める。都市政策、都市・地域計画、危機管理を専門とし、東京や大都市圏に関してさまざまな著作を発表してきた。著書に『東京一極集中が日本を救う』(単著、ディスカヴァー携書、2015年)、『東京2025 ポスト五輪の都市戦略』(共著、東洋経済新報社、2015年)、『東京の未来戦略』(共著、東洋経済新報社、2012年)、『山手線に新駅ができる本当の理由』(単著、都市出版、2012年)、『日本大災害の教訓』(共著、東洋経済、2011年)、『日本の未来をつくる』(共著、文藝春秋、2009年)などがある。これまで政府や東京都の委員、日本テレワーク学会や日本危機管理士機構などの責任者を歴任し、数多くの公的機関・民間団体の活動に携わってきた。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程を経て、ウォータールー大学大学院博士課程修了(都市地域計画、Ph.D.)。1947年、東京生まれ。一級建築士。