水都復活 江戸時代から手繰り寄せる未来の東京 都市構想

登壇者インタビュー – 葛西秀樹

水都復活
江戸時代から手繰り寄せる未来の東京 都市構想

2020年に向けて水都に注目する意義

かつては豊富な水と共存する水都として「東洋のヴェネチア」と呼ばれていた東京。
江戸時代、徳川家康が物資を運ぶためのインフラとして整備した運河であったが、前回の東京オリンピック以降、運河や川は埋め立てられ、水景は一変した。
しかし、2020年の東京五輪を前に、私達はこれからの都市競争力を高める要素の再考を迫られている。そんな中、大林組の内部では「前回の東京五輪以降、変えてしまったけれど戻すべきものがあるのではないか?」という問いが生まれた。その問いに対する一つの答えこそ、大林組が構想する「水都復活」をコンセプトにした「スマート・ウォーター・シティ東京」である。

「東京にいると気付かないかもしれませんが、東京は人口一人当たりで考えると、世界的にも有数の水不足に直面しております」と話す葛西氏の言葉通り、未来のために有限な水資源との向き合い方も喫緊の課題でもある。自然資本を意識した価値作りがグローバル・スタンダードである今、未来の都市作りにおける要諦を示唆する構想だ。

「スマート・ウォーター・シティ東京」における中心的な柱は次の3つ:
① 都心部の降水を大量貯水し、循環活用を狙う「スマート・ウォーター・ネットワーク」
現状では東京湾に流されているだけの未活用な雨量を有効活用すべく、大深度地下に巨大な貯水施設となる「ウォーターズ・リング」を整備する事により、都心の水量をコントロールする。

② かつてのような水上交通網を整備する「運河復活」
江戸時代、人々は外濠・内濠に流れる水と共存していた。時に水辺で憩い、時に船で水路を移動するなど、水を有効活用したエコシステムが存在していた。それらを現代に取り戻すべく、都心で必要な雑用水を雨水利用に切り替えるための仕組み導入が本アイディアの目的となる。

③ 東京の玄関口として機能し、大型クルーズ客船が着岸できる洋上ランドマークとしての「東京ウェルカム・ゲート」
これは、東京湾内・羽田空港沖の海域に浮かぶリング状の多機能フロート施設である。外径1km、高さ60m、地上12階、延べ床面積150万㎡ものスペックを備えるこの巨大ターミナルには大型クルーズ客船が最大6隻まで着船する事ができる。東京湾沖合の水質の良さにも着目し、リング内側には人工的な砂浜やサンゴ礁も造られる。ホテル、レストラン、ショッピング施設と共にマリンレジャーも楽しめる「東京から最も近いオーシャンリゾート」として、新たな観光資源になり得るアイディアだ。

構想の具現化

「スマート・ウォーター・シティ構想については、現在ある技術の延長で作られているため、技術的な実現可能性は備えています。都市開発は縦割りの側面がありますが、私達のように建設業の一員としてこうした構想を社会に発信していく事で具現化に近づけると考えています。また、アメリカの大手設計事務所をはじめとして、国際的な反響も多くございました。」

今後、着目している技術変化

「今回は、水都構想に水陸両用車を組み込んでいます。実は水上自動車は1970年代から存在していますが、東京では道路と運河の管轄が違ったため、普及しなかった歴史があります。しかし今後、自動運転が普及し始めますと、改めてこれらの旧来的な規制が緩和され、水陸両用車が普及する可能性を秘めていると思います。東京はあまり土地が残されていませんので、普通であれば何かを壊さないと新しいものは作れません。その意味では、建物に手を加える事なく新しい魅力を作れるというのは意義があると感じています。」

葛西秀樹

株式会社 大林組 テクノ事業創成本部PPP事業部 担当部長
1989年 大林組入社。再開発複合施設、オフィスビル、商業施設、映画撮影所、都市公園等の設計を担当する。古代アレクサンドリア図書館の想定復元、「FUWATTT2050」建設構想、「スマート・ウォーターシティ・東京」建設構想を手掛ける。

主な受賞歴
・環境芸術大賞
・名古屋市景観賞
・愛知まちなみ建築賞
・北米照明学会デザイン賞
・グッドデザイン賞