異能集団のヘザウィック・スタジオ クリエイティブ・プロジェクトの裏側へ
キーノート登壇者を知る - トーマス・ヘザウィック
異能集団のヘザウィック・スタジオ
クリエイティブ・プロジェクトの裏側へ
はじめに
グーグル新社屋、ロンドン五輪の聖火台、上海万博の英国パビリオンなど、数々の独創的なプロジェクトを手掛けてきたトーマス・ヘザウィック。今回のInnovative City Forum 2016では、キーノートセッションでの登壇が高く注目されています。そんな貴重な同氏のキーノートを前に、ヘザウィック・スタジオを代表し、シニア・デザイナーであるニール・ハバード氏に話を伺った。
過去作品の振り返り
ヘザウィック・スタジオは規模のプロジェクトに携わってきました。上海外灘金融センターやパシフィックプレイスのような大規模なプロジェクトに始まり、新型ロンドンバスのプロジェクトも行いました。新型ロンドンバスのプロジェクトは、規模としては小さいものでしたが、私達が携わったプロジェクトの中ではとても重要なものの一つでした。私は2つあるチームの1つに入り、2年間一貫して携わりました。初期スケッチから最終製造まで見ることができたのはとても素晴らしい経験でした。
私達が行ってきたもう一つの興味深いプロジェクトは、アメリカやアジアの展示会ツアーと並んで、ロンドンのヴィクトリア & アルバート博物館でのショーのデザインをリードすることです。今日までに行ってきたデザイン研究を私が覚えていたため、トーマスはスタジオでしばしば私のことを生きるアーカイブと呼んでいます。我々の作品を代表するのに正しいデザイン素材であるかどうか判断できますので、この能力はデザインレビューに役に立ちますし、キュレーターの方々にもとても重宝されています。とても魅力的なキュレーターの方々と接する機会に恵まれており、我々の作品を他の方がいかに解釈するのか知ることができるのはとても興味深いです。実際、始めはとても恐ろしいことではありましたが。
アジア都市でのワールドツアーについて
我々は今アジアで複数のプロジェクトを進行中であり、そのどれもが斬新で発見に満ちた経験です。イギリスの不動産開発業者は、デザイナーには特定のスタイルがあるという固定観念にとらわれており、例えばUKパビリオンのようなものを目にすると、「うちには困難なオフィスビルは不要」と考え、それはあなたのスタイルだと決めつけてしまいます。一方、アジアの人々は「それは上海エキスポにはとても面白いソリューションだ、あなただったら呉淞江でどうしますか? 外灘だったら?」とおっしゃるように思います。これはとても斬新で面白いことです。
ヨーロッパやアメリカとは異なる、アジア都市で進めるプロジェクト
まず始めに気付くことの一つは、どの国にも行くことができず、望むやり方で物事を進めることができないということです。実際にやらなければいけないのは、物を作り、アプローチを理解している人々と取り組む事です。ずっと「私たちはこのやり方でやってほしいんだ!」と言い続けるのではありません。実際に異なる文化における物事の進め方で行わなければいけませんし、異なる角度から物事を理解しなければいけません。アジアで行うプロジェクトでは、地元の建築ルールを知る著名な建築家と仕事をすることはよくありますし、プロジェクトに参画し文化的に許容される範囲かどうかを確かめることのできる地元のアーティストと仕事をすることもあります。重要なのは「理解する」ということです。特に初期段階の意見交換において理解することは重要であり、もちろん物を作ったりそれを届けたりする事はできますが、本当に地元の地域に根ざすことができたとき、より良い結果を生むことができます。地元の景色にそぐわないものをデザインしたくはないのです。
今、ロンドンに新たな価値をもたらすために必要なこと
都市部、またはもっと大きい文脈における物をデザインするときに本当に重要なのは、バランスを取る方法を知ることです。よい考えを守るということは、デザインのすべての部分を大声で叫ぶということと同義ではありません。ボンベイ・サファイア蒸留所プロジェクトが良い例です。我々が全体のマスタープランを監督していたのですが、観光客の流れをよくするために建物を撤去しました。真ん中の流れる川を広げ、全体で調和が取れるように緑化しました。
これはマスタープランにおけるガラスの家を中心の目印とする考えによるもので、すべてはどこに価値を置くかという選択に過ぎません。他の例としてUKパビリオンも挙げられます。エキスポの広大な場所にあって、他のパビリオンと比較して小さい建物でしたが、実際にはそのパビリオンはフットボールの競技場ほどの広さのある周辺エリアも含めた全体で成り立っていたのです。その空間そのものは人々の記憶に残りませんが、その空間がないと建物が際立たないのです。すべてはどこに価値を置くかという選択なのです。
何故、ヘザウィック・スタジオは建築家、エンジニア、デザイナーなどの異能集団でチームを構成するのか?
我々のデザインアプローチにはズームイン・ズームアウトの特性があります。トーマスはカメラレンズのズームイン・ズームアウトの考え方を好みます。プロジェクトの小さいディテールが大きなコンセプトの印象に影響を与えることもありますし、大きなコンセプトの印象から小さいディテールにズームインすることもあります。バスのようなプロジェクトの取り組み方はマスタープランと同じです。一つ一つのディテールだけでなく、それらが調和するように気を配ります。現在マスタープランに着手していますが、バスの事例と同様のアプローチで取り組んでいます。そこには、複数もの構成要素が連なります。我々の仕事はそれらすべての要素に気を配り、人々に経験してもらうことですが、同時に、これら小さな変化の積み重ねがプロジェクト全体の印象を変えうるという事にも気を配る必要があります。私達の仕事はアイデアを守ることですので、エンジニア、コンサルタント、クライアントによるディテールへのフィードバックが全体のアイディアを変えないように注視しています。
クリエイティブな結果を出すために多様な才能を抱える事の利点
スタジオに多くの異なる経歴、スキルを抱える利点は、我々のアイデアを上手く伝える際に非常に大きく働きます。アジアの展示会の準備で「インサイド・ヘザウィック・スタジオ」のキュレーターであるケイト・グッドウィンと働いていたとき、我々は幾度となくスタジオについて、そして、人々にどのような経験をしてもらいたいかについて語り合いました。特に、今はもうないですが、我々にとって重要なプロジェクトであったUKパビリオンのプロジェクトについて議論したのを覚えています。ケイトは良い点をついていました。彼女は建物の中にいるかのように感じるものを表現するモデルを作ったという感覚はありませんでした。すべてのモデルは常に建物が遠くから見えるもの、文脈の中で見えるものを見ていたのであって、決してそのスペースの中にいるかのように感じるように作られていたのではありません。ケイトと私は「もし自分の頭に周りを見渡せるような大きなモデルを取り付ける事ができたら?」と話していました。この議論の結果、Dミュージーアムで行った展示会の1.5メートル四方断面のモデルが生まれました。内装の空間がいかに外面の形状による帰結かが理解でき、頭を入れるような感覚を味わう事ができたのです。それは素晴らしい意見交換でしたが、ワークショップチームにとっては頭痛の種となりました。彼らはそのとても難解な仕事を外側同様、内側もLEDで照らすことにより成し遂げました。スタジオが制作してきた中でも最も素晴らしい作品の一つではないかと思います。もし誰もが同じビジョンを持ち、同じように働いていたのならば、それほどまでに素晴らしいものを作り出すことはできなかったでしょう。