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INTERVIEWビッグデータとAIが人の「思い込み」を
是正し、人や企業の可能性を広げる

Profile

福原正大Institution for a Global Society CEO/Founder/慶應義塾大学経済学部特任教授(People Analytics)

慶應義塾高校・大学(経済学部)卒業後、東京銀行に入行。
フランスのビジネススクールINSEAD(欧州経営大学院)でMBA、グランゼコールHEC(パリ)で国際金融の修士号を最優秀賞で取得。筑波大学で博士号取得。
2000年世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズ入社。35歳にして最年少マネージングダイレクター、日本法人取締役に就任。
2010年に、「人を幸せにする評価で、幸せをつくる人を、つくる」ことをヴィジョンにIGSを設立。
主な著書に『ハーバード、オックスフォード…世界のトップスクールが実践する考える力の磨き方』(大和書房)、『AI×ビッグデータが「人事」を変える』(朝日新聞出版社)、『なぜ、日本では本物のエリートが育たないのか?』(ダイヤモンド社)などがある。慶應義塾大学のほか、一橋大学大学院や至善館大学院でも教鞭を執る。

人が人の価値を判断するという重大な意思決定は、正しく行われているのでしょうか。今、人事採用の分野では、ビッグデータやAIを活用することでこの難題に向き合い、ブレイクスルーを試みようとする企業が現れています。
ICF2019では、「技術革新とデータガバナンスが都市生活をどう変えるか?」と題し、ビッグデータ活用の光と影を、法学者や、起業家、ジャーナリストたちと議論します。今回、ビッグデータとAIを活用した採用や育成などの人事支援サービスを手掛ける福原氏に、人事採用におけるデータ活用の背景およびポテンシャルについてインタビューしました。

バイアスと情報量の少なさが採用を歪めている

AIやビッグデータを、人事採用の現場に持ち込もうと思ったきっかけは、大きく2つあります。1つが、日本の採用に横たわるバイアスの存在です。他の国と比較して違和感を強く覚えるのが、学歴と女性に対するバイアスの強さ。とりわけ優秀な女性は日本では過小評価されています。例えば、会議でも、日本企業の場合は出てくるのが男性ばかり。外資系企業なら、半分近く女性が出てくるのが普通です。講演会でも、経営者系だと聴衆の95%くらいが男性で占められます。これって異常です。日本では、女性はこうあるべき、という「べき論」が根強かったりしますが、そこにはなんのファクトも無い。思い込みの部分が大きいですよね。

私自身の米国や英国での職務経験から考えて、これでは世界で競争できないと思いました。言い換えると、こういった人が人を評価をする際のバイアスが、社会の多様性、ひいては結果としてイノベーションを阻害していると感じたのです。バイアスを無くすための手段として、AIやビッグデータを活用できないかと考えるようになりました。

もう1つは、人事採用における情報量の少なさです。採用において指標となるのは、職務経歴書とその時のインタビューだけで、情報量が極めて少ない。それが、いろんな意味でのバイアスを起こす原因にもなっていると思います。もし自分の過去のデータ全てが可視化されていて、見せたいところをちゃんとファクトとして切り出せれば、すごくお互いにとって幸せですよね。コミュニケーションも円滑にできますし、より多くの情報を使って採用ができるわけで、思い込みを否定でき、人の可能性を伸ばしていけます。そっちの方が絶対にいい。人事に関する膨大なデータを集め、相手に渡せる仕組みが必要だと思いました。

人の判断が正しい、という思い込みをファクトベースで是正する

そうして始めたのが、AIとビッグデータを活用した科学的手法で採用や育成を支援するサービス「GROW」です。2016年後半に立ち上げて、ようやく3年ほど経ちました。

「GROW」を通じて強く痛感したのは、人の意思決定というものがいかに「思い込み」で動いていたのか、ということです。もちろんその仮説のもと始めたサービスでしたが、想像を上回るもので、人はデータに基づかない判断しかしていないのです。人間の判断こそが一番優れているという思い込みに支配されているケースが実に多い。例えば、色々な企業と採用のデータ分析をしていると、最終面接で役員がしっちゃかめっちゃかにする例が非常に多く出てきます。「俺が正しい!」と考える人に限って、データを使わないですし、結果として会社を悪い方へ導いてしまっているのです。

思い込みや声の大きい人がジャッジメントするのではなく、もっとファクトベースで意思決定すべきだと思っています。ある役員の推した社員が数年後に活躍していなければ、その判断は間違えていたということになりますよね。そうした傾向や結果は、ビッグデータで測れるわけですし、そういうデータ活用に取り組んでいる会社も現れ始めています。

大きい会社は動きが遅いと言われますが、人事で一人か二人、そういうことに強いビジョナリーな人が出てくると変わります。すでに「GROW」を導入いただいている企業でも、旧来の人事制度のあり方に強烈な問題意識、危機感をお持ちの社員がスピーディに動いてくれたことがきっかけでした。

人材価値と顧客価値をビッグデータで可視化せよ

企業価値というものは、資産や売上で測る会計価値、人材価値、顧客データの価値、これら3つに大きく分解できます。現状、人材価値と顧客データの価値に関しては、BS やPLなどには全く反映されず、可視化できていません。会計価値ばかりが注目される傾向がありますが、人材価値と顧客データの価値、この2つをビックデータで可視化させていくことは、3つの観点で重要です。

1つ目は、経営における正しい意思決定のためです。大企業であればあるほど、ユニークなアイデアが、組織の階層をのぼる伝言ゲームのなかで淘汰されてしまうことはよくある話です。米国では、組織システムにひそむ、伝言ゲームというリスクを打破しようとしている企業があります。例えば、世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターでは、全ての会議をビデオ撮影し、社員が互いの意思決定について評価を行ない、全社員の意思決定をビッグデータ化しています。それによって、どういう課題に、誰の意思決定や専門性が貢献したのかを、経営陣がすぐに把握できるのです。逆に言えば、その把握がないままに経営するというのは恐ろしくリスクがあるのではないでしょうか。

次に注目したいのは、人材の志向性やメンタリティを数値化することで、人材価値が企業価値を底上げする可能性がある点です。例えば、SDGsは、日本ではマーケティング的なキャッチとして使われており、正直なところ実効性が疑わしい企業も存在します。社員1人ひとりにSDGsの志向性があり、それぞれ主体的に取り組んでいるのであれば、その企業全体の活動が信頼できるでしょう。つまり、社員にSDGsの志向があるか、熱意ある人がどれだけ存在するのかを測ることが重要ではないかと思います。SDGsにおいてまだ大きな実績がなくとも、そういう人材を抱えている企業は、彼らのSDGsの志向性を可視化することで、採用力のアップという形で企業価値の向上を図れるはずです。

3つ目は、デジタル時代の経営戦略の策定には顧客データの活用が欠かせないということです。例えば、「プラットフォームを目指す」という言葉が多方から聞こえるほど、BtoBtoCのビジネスモデルは普及し支持されるようになりましたが、このスキームでは、最初のBに当たる企業は、Cの情報や顧客データを持てません。Cの情報を持っている企業、つまり真ん中のBがプラットフォーマーとなり、最終的に利益を総取りする形になりやすいです。したがって、最初のBの企業に当たる日本の多くの製造業は、経営戦略上、Cのデータを積極的にビッグデータ化してAIで解析する仕組みを作っていく必要があります。ただし、製造業は、モノに関するデータは進んでいますが、顧客データの価値を可視化できておらず、遅れをとっているのが現状です。早くしないと勝ち目が無くなっていくと思います。

Leader’s GLOBAL EYES

先日出席したラスベガスのHRテクノロジー・カンファレンスでは、去年までの「エンゲージメント」から「エクスペリエンス」に大きくテーマが変わっていました。個人が副業も含めて色々な働き方のポートフィリオを持っているため、1社に傾倒するエンゲージメントではなく、働く人のエクスペリエンスを最大化するマネジメントが重要だと考え方が変わってきているのです。米国では今、選択式のエンゲージメントサーベイやモチベーションサーベイを実施している時点で古い、その企業は終わっている、という見方もなされるほどです。そんなことをやる暇があるのなら、働き手のエクスペリエンスを最大化する施策を打つべきであり、それをビッグデータでやっていきましょう、と。これはすごく大きな変化だと思いますし、日本でも遠からず、この流れになってくるはずです。

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