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世界の叡智、大局的な視野、異論 - ICF2017の魅力を語る3つのキーワード -

今年で5年目を迎えるICFは、各分野をリードする専門家やオピニオンリーダーを国内外から招聘して行われ、多様なセッションを通して参加者に多くのインスピレーションを与えることでしょう。そのインスピレーションの持つ3つの意味 -「世界の叡智」「大局的な視野」「異論」- に着目して、ICF2017の魅力についてご紹介します。

世界の叡智の今を、臨場感をもって知る

あらゆる産業にテクノロジーが深く入り込む昨今、テクノロジーが起こす変化を理解せずに新しい産業や都市生活の未来を語ることは難しい。ICFでは、世界最先端の研究やビジネスに取り組むリーダーを招聘してきた。今年の基調講演では、デザイナーの原研哉氏、社会発展研究者のダニエル・ウッド氏と、建築家のフランソワ・ロッシュ氏を迎える。
基調講演のトップバッターを務める原研哉氏は、その大局的な視野と繊細な感受性によって、日本のデザインの世界的地位を高め、文化領域において日本と世界とを繋いできた。日本人の美意識や伝統こそが日本の未来資源と唱える真意や、氏が掲げる遊動という新しいライフスタイルに関心を向けることで、未来の生活における楽しみを発見できるだろう。NASAでの衛星設計及び米国や発展途上国のテクノロジー政策などに携わってきた経歴を持つダニエル・ウッド博士は、社会的発展研究者と名乗り、宇宙テクノロジーを応用した革新的なシステムを活用し、米国や発展途上国における課題解決を図っている。一方、建築家のフランソワ・ロッシュ氏は、地理、人体そしてロボットの3要素を活かす独自手法をとる実験的な建築集団に属し、今までポンピドゥー・センター、テート・モダン、シカゴAICなどで実際に展示してきた実績を持つ。

細分化が進むテクノロジー分野を語りつくすために、彼ら以外にもキーマンを呼んでいる。MITメディアラボやソニーコンピュータサイエンス研究所といった世界を牽引する頭脳集団から、義足のバイオニック・ポップアーティストのヴィクトリア・モデスタ氏や身体能力の拡張を研究するエンジニアの遠藤謙氏、ユーザーインターフェース研究の第一人者の暦本純一氏など、また日本の若きメディアアーティストとして注目を集める落合陽一氏なども参加する。参加者は普段キャッチアップすることが容易ではない各分野の最先端で何が起きているのかを知る良い機会になるだろう。

また、ICFでは何年もかけて人工知能やロボティクスなどをテーマとして取扱い、都市に浸透する過渡期であることを議論してきた経緯も踏まえて、今年は人間を機能的・感性的に拡張させるテクノロジーとして人工知能やロボティクスを取り上げる。テクノロジーそのものではなく、テクノロジーが及ぼす社会的インパクトに論点を置き換えることで、都市やライフスタイルの未来を描くヒントを参加者そして登壇者自身にももたらす工夫だ。

大局的に都市を理解する視野をなぞる

未来を描く上で、大局的な視野も必要だ。世界都市を新しい視点で見つめてきた「世界の都市総合力ランキング」(森記念財団都市戦略研究所策定)は、今年で10回目を迎えるため、10周年記念シンポジウムと位置づけ、過去10年間で見えてきた都市間競争の推移、20年後の東京に必要なビジョンや都市戦略を語る。その際、著作『領土・権威・諸権利―グローバリゼーション・スタディーズの現在―』などが有名なコロンビア大学のサスキア・サッセン氏など4名の都市研究の専門家が加わり、東京の未来についてよりオープンに議論する場が設けられる。

さらに、「世界経済フォーラムセッション」では、世界経済フォーラムのマネージングメンバーのシェリル・マーティン氏を中心に、“Top 10 Urban Innovations”の事例の紹介を中心に、都市をシステムとして捉えるアプローチで意見を交わし、他都市でも再現するための糸口を追究する。ベストプラクティスを糸口にして、都市運営を体系的に捉えることで、今まで以上に都市を大局的に理解する視野が得られるだろう。

立場の違う71人の専門家の異論に耳を傾ける

学問や業種の細分化が進む一方、都市の複雑さは増すばかりで、専門家だけで解決できることは限られている。この矛盾をはらんだ今日において、立場の異なる専門家からの異論はアイディアをブレークスルーさせるときに有用なものだ。今年のICFでは「イノベーティブ シティ ブレインストーミング」を2日目午後に開催。“社会生活までを含む統括的な議論”を合言葉に、各分野で実績のある専門家たちが互いの知見を重ね合わせるセッションを行う。

例えば、都市のインフラをテーマにしながら、富士通、キヤノン、ブイキューブといったITサービス企業と都市計画家など、立場の異なる専門家が議論に取り組む。インフラという言葉の定義がそれぞれ違いながらも、都市へのビジョンが交感されるとき、都市のインフラの核心的な姿が思い描けるだろう。ほかに、日本の人工知能研究をリードする松尾豊氏、研究者でありアーティストでもあるスプツニ子!氏、急成長するメタップスの佐藤航陽氏、「いま世界の哲学者が考えていること」を著した岡本裕一朗氏という異色の組み合わせで人工知能時代のアートの役割を議論するなど、ここでしか実現し得ないセッションが繰り広げられる。

また、超多様化社会へと突入し、人それぞれの幸福が異なる今、元来多様性に満ちた東南アジアに目を向ける「国際交流基金アジアセンターセッション」(3日目)は意義深い。映画、広告、ファッション分野で活躍する写真家・蜷川実花氏を筆頭に、インドネシア第2の都市スラバヤを再生させた初の女性市長、トリ・リスマハリニ氏や、マリーナベイ・サンズ アートサイエンス ミュージアムのエグゼクティブ・ディレクターのオナー・ハーガー氏などアジア文化の躍進を支える3名がオープニングセッションを飾り、その後、「とき/Time」「ところ/Place」「ひと/Community」という3つの切り口で、激動のアジアの未来において何が幸福なのかという問いが探求される。
時間軸がテーマの「とき/Time」では、フィリピン料理の研究・保全に取り組むレストラン経営者のエイミー・ベサ氏や、友禅染を用いた着物や下駄の制作から、人形浄瑠璃文楽の監督、レストランのアートディレクションと幅広く手掛けるアーティスト、舘鼻則孝氏などと、伝統と現代の融合について語る。「ところ/Place」では、バンコク初の都市設計事務所を設立したニラモン・クンスリソムバット氏や、震災後の石巻で公共工房を設立した建築家・芦沢啓治氏、バンコクに拠点をおくフランソワ・ロッシュ氏等と共に、公共スペースの在り方、都市と地方の関係性を考える。「ひと/Community」では、若者から人気を博すアーティスト集団・Chim↑Pomや、タイの人気ファッションブランドの創始者、ソムチャイ・ソンワタナー氏が集い、生の喜びやコミュニティの認識へ揺さぶりをかけるアートの力に注目する。

日本にとって近くて遠い東南アジアの国々は、多種多様であることを前提に、文化を育み、イノベーションを生んできた。そのため、彼らの成功事例は、異論を歓迎して議論を盛り上げるという対話の成果物として認めることができる。このセッションを通して、異論を歓迎した対話を可能にすることが、複雑な都市の問題を解決し、輝ける未来を描くことにつながる方法のひとつであると実感できるだろう。

このように、ICF2017のプログラムは、世界の叡智、大局的な視野、そして異論を感受できるように構成されている。ネットワークを広げるいい機会であることは言うまでもないが、まずは過去最多の71名の登壇者が語る都市のリアリティと未来のビジョンを、是非とも体感いただきたい。