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「都市全体にどのように適用できるか」を合言葉に、アートやテクノロジーとの横断的な議論を繰り広げたい

市川宏雄 | 明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授/ 森記念財団都市戦略研究所理事

市川宏雄

プロフィール

市川宏雄

市川宏雄は、明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授で、森記念財団都市戦略研究所理事、明治大学危機管理研究センター所長も務める。都市政策、都市・地域計画、危機管理を専門とし、東京や大都市圏に関してさまざまな著作を発表してきた。著書に『東京一極集中が日本を救う』(単著、ディスカヴァー携書、2015年)、『東京2025 ポスト五輪の都市戦略』(共著、東洋経済新報社、2015年)、『東京の未来戦略』(共著、東洋経済新報社、2012年)、『山手線に新駅ができる本当の理由』(単著、都市出版、2012年)、『日本大災害の教訓』(共著、東洋経済、2011年)、『日本の未来をつくる』(共著、文藝春秋、2009年)などがある。これまで政府や東京都の委員、日本テレワーク学会や日本危機管理士機構などの責任者を歴任し、数多くの公的機関・民間団体の活動に携わってきた。早稲田大学理工学部建築学科、同大学院博士課程を経て、ウォータールー大学大学院博士課程修了(都市地域計画、Ph.D.)。1947年、東京生まれ。一級建築士。

都市の未来は都市計画家だけのものではありません。デザイナーも起業家も誰もが未来を描きます。しかし、「都市全体でいかに適応できるのかという統合的な視点での考察はこれまで以上に必要だ」と、森記念財団都市戦略研究所理事の市川宏雄氏は指摘します。氏は、都市計画家がテクノロジーの進展に耳を傾けるなど相互コミュニケーションの重要性を説くと同時に、森記念財団策定の「世界の都市総合力ランキング(Global Power City Index, GPCI)」のような定量的な指標を基点として都市政策を実現する連動性の必要を主張しています。分野横断的に都市の未来を考える意義や、10周年を迎えたGPCIで見えてきたことについてインタビューしました。

最先端のテクノロジーに触れながら、都市への適用を考えることが使命

都市の未来を考える上でなぜ分野を越えた議論が必要なのでしょうか?

誰もが未来を考えています。テクノロジーもアートもそれぞれの領域の未来を描いています。しかし、都市という切り口で未来を考えたときに、各分野がどのように都市につながるのかが十分に吟味されていない現実を、私たちは長年の都市研究を通して実感しています。

一方、都市の未来を語るとき、様々な分野を掛け合わせることで無数のパターンで語ることが可能になります。ICFでは、アート、テクノロジー、都市空間の3つがあれば、ひとまず未来の都市は見定められるだろうという期待を込めて、3分野を横断的に議論してきました。

ICFの意義は、他分野を統合し、都市全体で未来を考えるところにあります。そして、都市空間に存在する人々や、彼らを支えるテクノロジー、アートや文化を一体化させ、都市に適用するとどういう意味があるのかを議論することだと思っています。もしそれらをうまく一体化できれば、より熟度の高い都市の未来を描くことができます。できなければバラバラのまま。そのため、我々のミッションは大きいものだと認識しており、今まで5年間、とにかく具体的に描こうと努めてきました。

その際には、一堂に会し、議論を進め、お互いを知ることが不可欠です。例えば、驚くほどのスピードで進化を遂げるバイオテクノロジーに関して、ICFに登壇する専門家の話を聞いた上で、都市にどのように適用できるのかを考えることは、都市を専門とする我々の使命です。それと同時に、彼らに対して、都市という視点も意識してほしいと働きかけることも欠かせません。このような相互のコミュニケーションの場としてICFは意義があるのだと思います。

人々はウィーンと近い感覚を東京に憶える、そこに東京の魅力が秘められている。

今注目している世界のイノベーティブな都市とはどこでしょうか?

イノベーティブとは革新ですから、新しいことを仕掛けるために投資される都市とも言い換えられます。そういった意味では、世界のどの都市もイノベーティブについて考えています。もちろん、文化や発展過程、テクノロジーの普及、さらには環境への考え方といった幾つかの点で、都市ごとに違いはありますが。

注目すべき点は、イノベーティブであることが次に何につながるのかを考えている都市とそうでない都市とに分かれることでしょう。例えば、GPCIは、イノベーションの先にある都市の魅力について、総合的に見ている指標です。ですから、イノベーティブな都市を知りたいときは、GPCIの上位都市を見ていけば良いのです。

ここで、イノベーティブであることで都市力を高め、常に魅力的であろうとしている都市を強いて挙げるとすると、それはシンガポールです。ほとんどの都市の場合、国と都市との方針に相違が生じますが、シンガポールの場合、都市国家のため、決めた政策を実行しやすいだけでなく変更も容易です。

東京へ向けられた世界からの期待や、世界を魅了する東京の独自性とは何でしょうか?

2013年9月に東京五輪が決まって以来、東京に視察にくるビジネストラベラーは増えました。私がお会いした欧米の投資家たちは皆口をそろえて、「外国人にとってビジネスをしやすい環境を整えてくれたら、香港やシンガポールではなく東京に来たい」という本音をこぼします。起業を支える制度、家族がちゃんと過ごせるような欧米式の住環境、インターナショナルスクールなどがそろえば、非常に魅力的であると感じているようです。

また、GPCIとは異なり、人々の感覚で都市を評価する「都市の感性価値ランキング」では、東京の新たな魅力を見出すこともできます。実はGPCIで3位の東京は、感性価値ランキングでは世界トップに位置します。そして、注目したいのは、感性価値で東京とトップを競っているのが文化性に優れたウィーンという点です。圧倒的に大きい都市圏を有する東京が、あの素晴らしい雰囲気を纏ったウィーンのような中型都市と近しいテイストであることに東京の秘密があると私は感じていますし、これを解明するのが我々森記念財団都市戦略研究所のミッションであるとも思っています。

東京の魅力を語る上で、海外からの訪問者の評価が訪日の前と後で劇的に変わる点にもふれておきたいです。多くの訪都外国人は、混乱のない整然とした大都市、遅延のない時間に正確な交通機関、美しい風景といった理由で、訪日前とはイメージが大きく変わるようです。とりわけ東京の魅力を象徴的に物語るのは、コンビニやスーパーでの支払いにおける円滑な決済かもしれません。海外の都市では、客は待たされるのが常ですが、日本もちろん東京では即座に決済してくれます。店員の高い教育水準や誰もが決済できるICTシステムの存在が背景にあります。これは日本独特の社会シムテムであり、同時にテクノロジーの発達の証だということができます。

アムステルダムやウィーン等 世界が活用するベンチマークに成長した日本発のGPCI

GPCIを10年やってきて初めてわかったことはありますか?

GPCIを始めるまでは、金融センターランキングや住みやすい都市ランキングといったテーマ別の調査がありました。しかし、テーマ別のものだと、総合力を誇る東京が国際的に上位にくることはありませんでした。それはおかしいと感じ、都市を総合的に且つ客観的に評価したいと考えたのがGPCIのはじまりです。

実際に、数字で可視化してみると、具体的に都市のランキングや課題が示されたことで、読み手の理解がはかどり、それに対応する施策を実施し易くなりました。その結果、安倍内閣の政策目標として「2020年までにGPCIにおいて東京が3位に入る」ことが掲げられ、これは既に達成してしまいましたが、都知事も1位にしたいとまで言及してくれています。

また、10年間続けたことで世界標準のベンチマークとしての信頼も国際的に高まっています。実は、アムステルダム、ソウル、ウィーンといった都市ではGPCIを活用しています。ウィーンのような小さな都市が世界10位というのは驚くべき結果です。しかし、最初はそのような意外な結果に興味を持ってもらうことだけでも良いのです。なぜなら、その意外性溢れる結果の理由を知ることで、次に何をすればいいかを考えられるようになりますから。世界の都市政策に関わる人々が次なるアクションを考える際にGPCIを使うようになった事実をみると、GPCIの当初の目的を達成しているという手応えもあります。

さらに、意外性と同等に重要なのが納得感です。調査を長く続けることで、より多くの人に納得してもらうことが必要です。最初の2008年、東京はニューヨーク、ロンドン、パリに続き、4番手でした。その時、多くの方はなるほどと思ったわけです。確かに、ニューヨーク、ロンドン、パリには今はかなわない、と。同時に、シンガポールが5番手として急速に成長しているという共通理解を持ちました。今では状況が変わり、東京は3番手にまで達し、上の2都市が見えてきました。このように、GPCIの数字を通じて世界の今への納得感を醸成することで、都市政策に関わる人を中心に新しい感覚が現れ始めたとも言うことができます。したがって、意外性も納得感もある、GPCIがそういう発見を提供できる調査だと面白いと思っています。我々は引き続きそれを目指していきたいですね。

多様化の今、みんなに共通のインフラから それぞれに最適なインフラへ。

2日目の「シティブレーンストーミング」の分科会『都市のインフラ・社会インフラの再定義』ではどういった議論が進むのでしょうか?

分科会のスピーカーの皆さんがインフラの専門家ではないので、全く予想がつきません。ただ、都市計画を専門にしている我々の考えるインフラと、ICTサービスを提供している企業担当者の考えるインフラには相違があります。大切なのは、相違を前提としながら、皆がそれぞれ都市について考えているという事実を知ることではないでしょうか。

我々の立場からすると、やはり都市では人々の快適性は重要ではないかと考えます。ただ、利便性を唱える人もいるでしょうし、刺激と言う人もいるでしょう。もちろん、経済活動を第一と考える人もいます。各々が様々なことを主張するわけです。これは、様々なインフラが必要だとも言い換えることができます。交通だけがインフラではなく、刺激や快適性に相応しいインフラが求められるのです。だからこそ、都市は多様で面白いものだと私は感じています。ICF当日は、インフラについて様々な意見が出ると思いますし、そうなることを望んでいます。